大判例

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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)214号 判決 1976年8月30日

原告

日本アンテナ株式会社

右代表者

滝沢左内

右訴訟代理人弁護士

岩田満夫

外一名

被告

原田工業株式会社

右代表者

原田次郎

被告

原田商事株式会社

右代表者

原田次郎

被告

株式会社大沢商会

右代表者

大沢善朗

右三名訴訟代理人弁護士

増岡章三

外二名

右補佐人弁理士

鈴江武彦

外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判<略>

第二  請求原因

一、原告は、訴外Tから、次の実用新案権について範囲全部の専用実施権の設定を受け、その旨登録を経由した専用実施権者であつた。

(一)  考案の名称 空中線埋込保持具

出願日 昭和三二年三月三〇日

(実用新案登録願昭三二―一三六九〇号)

公告日 昭和三六年二月二三日

(実用新案出願公告昭三六―三七一二号)

登録日 昭和三六年七月一四日

登録番号 第五四三二七九号

昭和四六年七月一四日存続期間満了

(二)  考案の名称 自動車用ラジオ空中線

出願日 昭和三二年八月一九日

(実用新案登録願昭三二―三六六〇四号)

公告日 昭和三六年二月二三日

(実用新案出願公告昭三六―三七一三号)

登録日 昭和三六年八月三一日

登録番号 第五四九八三五号

昭和四六年八月三一日存続期間満了

<後略>

理由

一原告が本件第一、第二各実用新案権についての専用実施権者であつたこと、本件第一、第二各考案の登録請求の範囲が請求原因二の項のとおりであること及び被告らが被告第四、第六、第八製品を業として製造販売したことは当事者間に争いがない。

二原告は、被告第四、第六製品は本件第二考案の技術的範囲に属すると主張するので、まずこの点について検討する。

(一)  右争いのない本件第二考案の登録請求の範囲の項の記載によれば、本件第二考案は、次のとおりの構成要件に区分説明することができる。

(a)  大径側管と小径側管と組合せて付属部品を介して更に補強管の適所にネジ機構等の方法で、

(b)  合成樹脂絶縁物よりなる管を継合する、

(c)  自動車用ラジオ空中線の構造。

(二)  前認定の本件第二考案の構成要件と被告第四、第六製品の構造とに基づき、本件第二考案と被告第四、第六製品とを対比する。

1  本件第二考案は、大径側管と小径側管と組合せて付属部品を介して更に補強管の適所にネジ機構等の方法で(構成要件(a))、合成樹脂系絶縁物よりなる管を継合する(構成要件(b))という構成であるところ、右「ネジ機構等」にいう「等」が何を指すものであるかが、本代第二考案の説明書及び図面には何ら説明されていないことが認められ、従つて、これを具体的に明確にすることができない。しかし、本件第二考案の説明書の実用新案の説明の項に、本件第二考案の作用効果の説明として、本件第二考案には、右構成を採つたことにより、「内部の分解掃除も容易に出来て防蝕の効果」があると記載されており、右記載によれば、「ネジ機構等」にいう「等」とは、少なくともネジ機構が有すると同等の右効果を奏する技術手段を指すものであると解さなければならない。これに対し、被告第四製品は、保持管(1)下部に設けた嵌合溝(2)に管(3)を接着剤(4)を介在させて挿入固定すると共に、補強管(8)にてかしめ止めした構造であり、被告第六製品は、保持管(6)の下端外に突出した樹脂(1)に嵌合溝(7)を形成し、この嵌合溝(7)に管(12)を接着剤(13)を介在させて挿入固定すると共に、補強管(10)とかしめ止(18)した構造であつて、被告第四、第六製品は、本件第二考案のネジ機構が有すると同等の前説明の効果を奏する技術手段によつて継合されている構造ではない。

そうすると、被告第四、第六製品は、いずれも本件第二考案の構成要件(a)を充足しないものというべきである。

原告は、本件第二考案の構成要件(a)は、「ネジ機構等の方法によつて」というものであり、ネジ機構だけに限定されていないから、着脱可能の構造でなくても、本件第二考案の要件を充足すると主張する。しかしながら、「等」というのであるから、ネジ機構の方法のみに限定されるとはいえないとしても、そのことから直ちに着脱可能の構造でなくともよいと解することはできない。若しも、継合方法か着脱可能の構造のものでも着脱可能でない構造のものでも良いとするならば、何故に登録請求の範囲の記載が「補強管4の適所へ合成樹脂系絶縁物より成る管6を継合して成る」とされないで、わざわざ「ネジ機構5、7等の方法によつて」という記載が挿入されたかが説明できなくなるし、また前説明の本件第二考案の説明書記載の本件第二考案の効果を奏しない構造のものまで、本件第二考案の技術的範囲に入つてしまうという矛盾が出てしまう。原告の主張は理由がない。

2  右のとおりであるから、その余の点について検討を加えるまでもなく、被告第四、第六製品は、いずれも本件第二考案の技術的範囲に属しないというべきである。

三次に、原告は被告第六、第八製品は本件第一考案の技術的範囲に属すると主張するので、この点について検討する。

(一)  前認定の本件第一考案の登録請求の範囲の項の記載によれば、本件第一考案は次のとおりの構成要件に区分説明することができる。

(A)  保持管の一部に削込部を設け、

(B)  保持管にコードの接続口を設け、

(C)  右(A)、(B)の外面を熱硬化性絶縁物をもつて熱加工包被成形する。

(D)  熱加工包被成形した熱硬化絶縁物の一部に掛止部を段設してなる、

(E)  空中線保持具の構造。

(二)  前認定の本件第一考案の構成要件及び被告第六、第八製品の構造に基づき、本件第一考案と被告第六、第八製品とを対比する。

1  本件第一考案は、保持管の一部に設けられた削込部及びコードの接続口の外面を熱硬化性絶縁物をもつて熱加工包被成形するものである(構成要件(C))のに対し、被告第六、第八製品は、保持管(6)の外周に膨出して保持管(6)、補強管(被告第六製品では(10)、被告第八製品では(9))及びビニール被覆ケーブル(3)を熱可塑性樹脂(1)をもつて一体的に射出成形した構造である。

そこで、被告第六、第八製品の熱可塑性樹脂が本件第一考案にいう熱硬化性絶縁物に包含されるものであるか否かについて考える。<書証>によれば、本件第一考案の登録出願前既に熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の語が、それぞれ成形原料として異なつた性質を有する樹脂を指すものとして区別して用いられていたことが認められるところ、本件第一考案の出願人は願書に添付した当初の説明書の登録請求の範囲の項及び実用新案の性質作用及び効果の要領の項において、本件第一考案の絶縁物について「樹脂系絶縁物」としていたのを、後に訂正説明書をもつて登録請求の範囲の項及び実用新案の説明の項において、これを「熱硬化性絶縁物」と訂正したことが認められ、右事実によれば、出願人は本件第一考案の絶縁物について熱可塑性絶縁物を含まないところの熱硬化性絶縁物に意識的に限定したものと解される。

原告は、登録請求の範囲に「熱硬化性絶縁物」と記載したのには格別の理由はなく、「熱し――溶解――冷却――成形」過程をとる絶縁物を意味する用語としてこれを使用したもので、これから熱可塑性樹脂を排除するものではないと主張する。しかしながら、本件第一考案の出願書類の全体によるも、出願人が熱硬化性絶縁物の語を単に原告が右主張するとおりの用語として使用したものと認めることは困難であるし、かといつて右訂正の理由が明らかにされているわけでもないが、前認定のとおり本件第一考案の登録出願前既に熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の語がそれぞれ成形原料として異なつた性質の樹脂を指すものとして区別して用いられていたものであるところ、当初「樹脂系絶縁物」としていたのをわざわざ「熱硬化性絶縁物」としたのであるから、訂正の理由が明らかでないからといつて、出願人が本件第一考案の絶縁物について熱可塑性絶縁物を含まないところの熱硬化性絶縁物に意識的に限定したものであるとの前認定が妨げられるものでもない。原告の主張は理由がない。

そうすると、被告第六、第八製品の熱可塑性樹脂からなる絶縁物は、本件第一考案の熱硬化性絶縁物に含まれないから、結局被告第六、第八製品は本件第一考案の構成要件(C)を充足しないものというべきである。

2  なお、本件第一考案は、保持管にコードの接続口を設ける構成である(構成要件(B))のに対し、被告第六、第八製品は、ビニール被覆ケーブル(3)の芯線(4)を直接はんだ付け(5)した保持管(6)の構造であつて、保持管に接続口が設けられていないから、本件第一考案の構成要件(B)も充足しないものというべきである。

原告は、本件第一考案のコードの接続口は保持管にコードを接続するものであり、差込口部を有する部材を意味しないところ、被告第六、第八製品のビニール被覆ケーブル(3)のはすだ付け(5)はコードを接続するものであり、且つ本件第一考案の接続口と同一の作用効果を奏していると主張する。しかしながら、登録請求の範囲に、「保持管の一部に……コードの接続口3を設け」接続口が保持管の一部に設けられるものであることが記載されており、また実用新案の説明の項にも、本件第一考案の構成の説明として、「図面(第1図)に示す如く保持管1の適所に……コードの接続口3を設け」と接続口が保持管の一部に設けられるものであることが示されており、そして図面にもそのことが明瞭に示されているし、更に実用新案の説明の項に、本件第一考案の効果の説明として、「コード接続口3を設ける為め従来の如く別個の附属伝導部分の必要がなくなり往々生じた伝導部の接触不良が少くなつた。」と記載され、右効果が保持管に接続口を設けたことによるものであることが示されていることが認められる。なお、出願人は出願手続中、意見書を提出して、本件第一考案は「受信コードの接続も同保持管に直接接続する部を設ける」ものである旨説明していることが認められる。右事実によれば、本件第一考案の接続口は、保持管の一部に設けられた文字どおりの口部を意味するものと解するほかはない。保持管に対するはんだ付けを本件第一考案の接続口に該当するということはできない。原告の右主張は理由がない。

3  以上のとおりであるから、その余の点について検討するまでもなく、被告第六、第八製品は、いずれも本件第一考案の技術的範囲に属しないものというべきである。

四よつて、原告の被告らに対する本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(高林克己 清永利亮 小酒禮)

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